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 コミカライズ大成功の例『風が強く吹いている』

中・高時代の大半を本州の最南端で過ごした私にとって、「箱根駅伝」なんてのは「正月に走る物好きと、それを延々と放送している物好きと、それをずっと見ている物好きがいるらしい」ぐらいの認識しかなかった。大変失礼ですごめんなさい。運動が苦手な自分のひがみは多々あったとしても、関東と全く縁がなかった自分には、出場校は知らない大学ばっかりだし、富士山は子供の頃見たことあったけど箱根なんか行ったことないしで、全く縁遠いものだったことは確か。
それでも縁あって関東に住むようになり、箱根にも行くようになりはしたけれど、関東の私大に縁がなかったせいか、やっぱり箱根駅伝は縁遠いままだった。自分の母校が出てれば、応援したくなったのかなぁ。
ただ、年を食うにつれて、まだ知らないことが世間にはいっぱいあるんだ、と新しいことにいろいろチャレンジしていくにつれ、昔の自分なら全然興味なかったサッカー観戦なんかも意外と楽しいんだなとわかったり、野球も生で見ると結構面白かったりで、スポーツ観戦もいいもんだな、と思えるようになってきた。

そして来年2010年まであと10日を切った今。満を持して箱根駅伝ですよ。何も知らないけど、見てみたい。そう思えるのは、この本を読んだから。(長い前置きだな)

風が強く吹いている 三浦しをん
これほどまでに箱根駅伝について全く何も知らない自分を引き込ませ、ぐいぐい引っ張っていくこの作品には、本当に感心した。もしかしたら駅伝好きは「ありえないよ!」と思うかもしれない荒唐無稽な設定…強豪が出場権を獲得するためにせめぎあう箱根駅伝に、シロート集団が10人ギリギリで挑む! ど、どうなるの!? 出れるの? と話の先が気になって仕方がない。まとまらない10人が少しずつまとまり始めたときの安心感、衝突したときのドキドキ感。だんだんとランナーとしてのレベルは上がっていくけれど、それはあくまで初心者レベルでの話。強豪たちに本当に通用するのか? 皆がレベルアップのために走りこみ、そのなかで少しずつわかってくる、メンバーそれぞれの過去…。競技会、予選会、そして本番…ずっとずっと、ドキドキしっぱなしだった。
説明と思わせない細やかな情景描写があるからこそ、長距離陸上競技などと言う縁遠い世界が「あなたの知らない世界」にならず、共感したり応援したりしたくなる。文章で登場人物10人をそれぞれ書き分けるのは大変だろうに、きちんとキャラわけしてそれぞれのキャラが立ってるから、陸上バカの主人公にいらだったり、その一方で感動したり、脇キャラの気持ちにまで同感したりできる。自分もアホほどつたないながらも文章を書いたことがある人間として、この本はすごい、この物語を書ききった三浦しをんさんは本当に凄い、と心から感動した。

そして、コミカライズされた本作。

風が強く吹いている 三浦 しをん原作/海野 そら太漫画
これがまた、本当に凄い! 凄いばっかり言ってる自分の語彙の貧困さには絶望したくなるけど、それでも言いたい。すごい。三浦しをんさんが「文字の表現力」と言う武器を最大限に使ってあの物語を書き上げたのだとしたら、海野そら太さんは「漫画の表現力」を最大限に使って、この物語を描写していると思う。
まず10人が襷を繋いでいく描写、どれもこれも工夫を凝らされたアングルで、渡す側渡される側の二人がどのような状態かがものすごくよく伝わってくる。主人公がごぼう抜きで周囲を抜いていく描写、なんと真下から見上げるアングルだった。位置関係ものすごくよくわかるけど、どうやったらこんなの描けるのさ! 脳内で回転させてるのか??凄い、凄すぎる。
あとこのコミカライズの凄いところは、「風が強く吹いている」と言う物語のキモ「素人集団10人だけで箱根駅伝」は全く変えず、けれどもまったく別の物語を構築して見せたところ。三浦しをんさんの本では妨害役(おそらく既存の強豪勢力の代表として描かれた)でしかなかったライバル校に、海野そら太さんは血肉をつけた。当然だけれど強豪校にだって、素人集団たちと同様、人間関係があり、苦労があり希望があり、箱根で勝ちたい理由がある。これで物語の深みがぐっと強くなった。そして、素人集団10人をまとめる中心人物には、さらに動機付けが強くなるような過去が付与された。

そういう意味でこの作品は、「原作を全く変えないコミカライズ」が好きな人にはお薦めできない。ただ、これは個人的な意見だけれど、「ひとつの表現で完成されたものを、さらに別の表現で表現しなおす」ならば、これくらいにやってこそ、表現しなおす甲斐があると思う。そして原作者は、他のクリエイターにこんなふうに作品を作ってもらえて、すごく嬉しいと思う。

最終巻で三浦しをんさんが書いていた。「このような素晴らしい漫画にしてもらえて、ものすごく嬉しかった、と同時に、どうして私はこのように書けなかったのだろう、とものすごくくやしかった」(手元に本がないので概要です)
この賛辞こそ、コミカライズした漫画家さんの漫画冥利に尽きると思うし、と同時に、一番最初にこの話を思いついた作者さんの、作者冥利に尽きる話だと思う。

自分の胸の中にあった種を、一生懸命水をやり肥料をやり、育てて大きな木にして世間に出したら、その木を買い取った人が美しく剪定しさらに手をかけて、大輪の花を咲かせてくれた。

2009年の終わりに、幸せな体験をさせてもらった。こんな幸福な連鎖が、もっとコミカライズやメディアミックスに起きたらいいなと思う。

…さて、映画版はどうなんだろうな。そして2010年の駅伝は、どのチームが箱根を制するんだろう。
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本の業界の片隅で生きています。構成要素は鋼・ドイツ・宇宙・本・酒・あとその他です。


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