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 大人になっちまったな『寄宿生テルレスの混乱』

以前読んで感銘を受けた本について。某所で書き散らした短文の補足転載です。


寄宿生テルレスの混乱
ムージル著/丘沢 静也訳
光文社古典新訳文庫

この本、知る人ぞ知る「耽美小説・ゲイ文学ブックガイド」(絶版)という本に掲載されていたものです。
まず、このブックガイド自体すごく面白い。絶版ですが古書なら全く手に入らないわけではないので、欲しい方はヤフオクかAmazonのマーケットプレイスがオススメ。松岡正剛さんの千夜千冊内での書評もあります。日本外国古今東西の耽美小説、ゲイ(男女とも)の本の真面目なガイドブック。ネットのなかった時代に発刊されたこの本、執筆者達の行き場のない迸るほどの情熱が感じられます。
私が最初にこのブックガイドについての記事を見たのは、いったいどこだったのか…。もはや記憶にないのですが、そこには「ドイツにおけるホモエロス文学の系譜」が紹介されている、とありました。しかも、1800年代末~1920年代のドイツ同性愛史についても記述があるとも。
すたり、と(脳内で)立ち上がりそのままヤフオクへ行き、アラートをかけた私。
そんなふうにネットの大海に釣竿を吊り下げたことも忘れたある日、ヤツはやってきました。
まず、「ガイドブック」の「ドイツにおけるホモエロス文学の系譜」は本当によかった。ナチス時代の同性愛(迫害)史は割とあるんですけど、その前の時代の話ってなかなかないんです。それがこの本には、1800年代末~1920年代のことがバッチリ書かれてありました。ドイツでは近年まで同性愛禁止法がありましたが、それでもナチスが全権を握る1930年代に入るまでは、ゲイ雑誌があったり、禁止法を廃案にする話がおおっぴらにできたり、大都会なら男同士で腕を組んで歩いても平気な雰囲気があった、比較的自由な時代だったようです。ええ、ミュンヘンも大都市です。ふふふ。

そして冒頭の、『寄宿生テルレスの混乱』。この本も実は存在だけは知っていたものの、絶賛絶版中でした。あらすじが上述のブックガイドに掲載されていると聞いて、上記ブックガイドが欲しくなった次第。
ガイドブック内のあらすじも想像にたがわず、すごいことになってて…。なんせ記述が「全裸で迫る美少年、魅力に抗えずそのほっそりとした白いからだを…」…からだをどうしたわけさ! 超気になるっつーの!! 
余計読みたくなったところにいただいた情報。「光文社古典新訳文庫で新訳出てますよ」 うおおおお、復刊流行り万歳!! ということで速攻で買物カゴに放り込んだわけです。

さて、『寄宿生テルレスの混乱』とは、どんな本なのか。

『寄宿生テルレスの混乱』(1906年)は、未完の大作『特性のない男』の作家、ムージルが、自分の体験をもとに、20代前半に書いた処女作である。
物語の舞台は、全寮制エリート陸軍実科学校。ティーンエージャーの男子が寝起きしている。狭くて閉鎖的な空間だ。当然、いじめが起きる。性に目覚める季節だ。売春婦だけでなく、ホモセクシャルも……。「テルレスのなかでまだ識別されていないものが、テルレスの意識に投げかけた影」に、少年テルレスは混乱する……。   (解説より P.322)


帯にはでかでかと「ボーイズラブ」の文字。オイオイと思いながら読んでみましたが…。
まあ確かに全寮制で男ばっかりで、やることはやっています。しかし当たり前ですが昨今のBLのように直接的な描写はほとんどなく、古き良き時代の、ドイツ青春小説(内面描写系)だと思いました。

若きテルレスは、自らの内面をどうにかして形にしようとしながら、しかしなかなかできずに苦しみます。『「描写できない」内面の煩悶』を、あれだけ文章で表現できたことがすごいです。作者がこの本を書いたのは22歳~25歳のころだそうで、そのことにも深く納得しました。
この小説はこの年代だからこそ書けた小説のような気がします。「疾走感」というのか、テルレスと同時代の感覚で駆け抜ける若いエネルギーを感じます。文体を簡略にして、文章内の混乱さえもそのままつづったという訳者の選択も正しかったのでしょう。思考の混乱ぶりが、かえって生々しい感じがします。

読了後、自分の大学時代がいろいろと思い起こされました。
何者でもない自分は、いったいこれからどうなるんだろう、それも全部自分で選ばなければいけないなんて、一体どうすればいいんだろう。大学生の自分はひたすらに不安で、よく狭い下宿に一人寝っころがって、天井を眺めながら呆然としていたものでした。シューマンのクライスレリアーナとかバッハのオルガン音楽なんかをヘッドホンつきで聞いて、音楽が自分をどこかに連れて行ってしまうような感覚に身をゆだねて、何かを考えているような、忘我しているような感覚に逃避しでみたり。ロマン派のシュトルムウントドラングを自分の身に取り込んで楽しんでたんだなあ、と、今なら思えるんですが。


出来ればこの本、大学時代に読んでみたかったです。そのころ読んだらテルレスに共感したり、むしろ近いがゆえに反発したり、もっとビビッドに読み込みが出来たような気がします。「可能性」の怖さというか、「何でも選べるけど、何かを選んだら何かを手から離さなければいけない」という、まだ何も選んでいない自分特有の、モラトリアムな不安。当時はこわくてこわくて仕方がなかったんだけど…そんな悩みがあるのもある意味万能感の裏返しっつーか…若さの特権ですよね…。

ボロアパートで煩悶していた大学生は、それからずっと歩いてきました。
いろいろな分岐点でいろいろな選択をして、間違ってたり合ってたりして、気がつけばずいぶんと遠くまで歩いてきたようです。
今のわたしはもう、「何者でもない自分」に煩悶するような繊細な感覚は持ち合わせてない。
今だって全くもって「何者でもない」んだけど、むしろ何も能力ないのに今の会社首になったらどうしようとか35過ぎたら職がねえよとか、金貯めとかなきゃ老後やばいだろとか生々しい悩みでいっぱいだ!

まあでも、すっかり忘却の彼方だった自分の大学時代の感覚を思い起こさせてくれたから、今読んだことにも意味はあったのかな。

いい本、そしていい読書って、どんなときに読んだとしても、その時々に応じたいろいろな思いを喚起させてくれていいもんですね。






---


しっかしこの話、ぶっちゃけ皆すごいことになってるんですよ…。
パジーニ(いじめられ役の美少年)のセリフがふるってる。
「いやだ、話せなんていわないで! (略)…ああ…君のいじめ方って変わってる……!」
…正直フいた。いじめられるの、楽しんでるようにしか聞こえませんww

主人公もいい味出してるし…。
美少年に押し倒されて…ってときの主人公の心理描写…。
「これはぼくじゃない!………ぼくじゃない!………あしたになったら元のぼくに戻るんだ!………あしたになったら……」
こんな、煩悶しながら流されてく役、ハイデで妄想するとめっさ楽しいしww


(BL文学としても十分に楽しませていただきました・死)
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